試楽
宵宮の前夜、本番と全く同じ様に芸をうち最終確認が行われます。 これを試楽(しらく)といいます。 若い衆の中では「ようかばん」と言う方がしっくりくるのですが、これは春に曳山祭りが行われていた頃の名残で、 試楽は必ず5月8日だったことに由来します。
昼に山倉に集まり、所定の場所まで山を移動させます。この日は平日のため若い衆は仕事の休みを 取れる者が集まりますが会社員はなかなか難しいのが実情。少ない人数で急坂を下っての移動は、安全のため車の牽引をつけます。「ヨイサー」の掛け声に合わせて山を引くと、若い衆はいよいよ祭りが始まった事を実感し、血が騒ぎ出すのを感る瞬間です。
役者はこの日から学校を休み、午前中に散髪を済ませ、。夕方から役者宿に集まり早めの夕食をとります。
襦袢に着替え団四朗師匠に化粧をしてもらう事から本格的な準備が始まります。 びんつけ油とおしろいは独特の香りがしますが、これが苦手な子供もいます。(私は子供の頃、これだけで気分が悪くなっていました。)
これまでは化粧のために眉毛を剃るのが常でしたが、毛をしっかり固める物がでてきたので今年は剃らずにすませました。役者にとってはとてもラッキーなことですね。
化粧が済むと次は衣装付け。衣装さん三人がかりの作業です。この時が初めての着付けなので、この役者は腹に巻くタオルは1枚などと決められていきます。

各役者に一人ずつつく役者係は化粧や着付けの補助もします。小さな役者は衣装をつけてから「トイレ」と 言わないように気をつけたり、顔を手でこすって化粧を崩さないように綿棒でかいてあげたり付ききりで世話をするのが役目。 祭りの間は親代わりのようなものでかわいい息子が一人増えます。

テレビを見ながら時間が来るのを待ちます。タオルは衣装に化粧を付けない為のもので、 両手も軽く上げて手に塗ったおしろいも衣装につけないようしたりします。
祭りの期間中は女性は役者宿に入れませんが、試楽は稽古の範囲なのでこの時だけ中に入ることが許されます。息子の晴れ姿にうれしさ半分、心配半分の複雑な心境・・・
着付けが終り芸をうつ前に祭期間中に町内に飾る写真の撮影をします。 この写真は翌朝には平和堂さん、米原駅東口、中町町内の掲示板で見ることができます。

それが終わると山の裏側で出番待ち。子供なりにも緊張感が漂います。

本番と全く同じ様に芸を打ちます。
狭い舞台は衣裳をつけるとさらに手狭に。立ち位置や道具の場所を微調整します。見ている方にはどれだけわかってしまっているかは定かではありませんが実際には細かなトラブルがいろいろ出ています。衣装や小道具の問題もこの時に出し切ってしまい、翌日からの本番にはちゃんとできるように改善します。
この時に役者が自分なりに対策をたて対応してしまう所にはいつも感心させられます。舞台に立つ子供達はとても小学生とは思えない程、 自分のすべき事を理解した行動をとり、祭期間中の成長を感じさせてくれます。
試楽が終っても役者宿はまだまだ大忙し。着替えをして化粧を落とします。 クリームをたっぷりガーゼに塗ってこすって落とすのですが、拭くだけではなかなか落ちず、力を入れると子供が 嫌がり加減が難しいものです。その他、衣装さんは鬘を結い直したり、引き抜いた衣装に糸を通し直して、次の公演に備えます。